探偵事務所を検索すると、思った以上に多くの名前が並んでいて、かえって選べなくなった——そんな経験はありませんか。実は、その感覚には統計の裏付けがあります。探偵の営業所はこの11年間、一度も減ることなく増え続けてきました。ところが、探偵の代表的な仕事とされる浮気調査の「出口」にあたる統計、つまり浮気を理由とする夫婦間の法的な争いは、同じ期間に大きく減っています。増える探偵と、減る争い。この奇妙なねじれを、うわきしらべ編集部が公的統計を突き合わせて読み解きました。
結論:警察庁『探偵業の概況』によると、探偵業の届出営業所は2015年の5,667カ所から2025年には7,354カ所へと11年で29.8%増え、一度も減っていません。一方、司法統計年報(家事編)によると、「異性関係」を動機とする夫婦関係調停の申立ては同じ11年で36.0%減りました。供給は増え、浮気をめぐる争いは減る。この逆説を公的統計のクロス分析で読み解きます。
探偵の営業所は11年で29.8%増、一度も減っていない
警察庁『探偵業の概況』によると、探偵業の届出営業所数は2015年末の5,667カ所から2025年末には7,354カ所まで増えました。11年間の増加幅は1,687カ所、率にして29.8%です。

| 年(各年末現在) | 届出営業所数 |
|---|---|
| 2015年 | 5,667 |
| 2018年 | 5,852 |
| 2020年 | 6,379 |
| 2022年 | 6,970 |
| 2025年 | 7,354 |
注目したいのは増え方です。この11年、前年を下回った年は一度もありません。外出自粛で対面のビジネスが軒並み影響を受けた2020年・2021年ですら、6,066カ所(2019年)から6,379カ所、6,693カ所へと増え続けています。
2025年末時点の内訳は個人5,293・法人2,061で、約7割が個人による届出です。なお、この統計が数えているのは「業者数」ではなく「営業所数」です。1つの業者が複数の営業所を届け出ることもあるため、事業者の数そのものではない点は押さえておいてください。元データは警察庁の生活安全関係統計のページで毎年公開されています。
一方、「異性関係」を理由とする調停申立ては36.0%減った
次に、浮気調査の「出口」にあたる統計を見ます。夫婦関係調整調停——離婚や関係修復を話し合うために家庭裁判所へ申し立てる手続きです——では、申立ての動機が集計されています。司法統計年報(家事編)によると、動機として「異性関係」を挙げた申立ては2015年の11,280件から2025年には7,216件へと、11年で36.0%減少しました。2020年の時点で8,637件と、すでに大きく減っています。

妻側・夫側のどちらの申立ても減っています。妻からの申立てで「異性関係」を挙げたのは8,643件(2015年)から5,393件(2025年)へ、夫からの申立てでは2,637件から1,823件へ。片方の性別だけの現象ではありません。
1点、読み方の注意があります。この統計の「動機」は、申立人が主なものを3個まで選ぶ重複集計です。「異性関係だけが理由だった件数」ではなく、「異性関係を主な理由の1つに挙げた件数」だと理解してください。データは裁判所の司法統計検索で誰でも確認できます。
さらに、離婚そのものも減っています。人口動態統計(厚生労働省)によると、離婚件数は2015年の226,238件から2024年(確定数)には185,904件へと17.8%減少しました。
3つの指標を重ねると「需給のねじれ」が浮かび上がる
ここまでの3つの統計を、2015年を100とした指数でひとつのグラフに重ねてみます。

| 指標 | 2015年 | 直近 | 指数(2015年=100) |
|---|---|---|---|
| 探偵業の届出営業所数 | 5,667 | 7,354(2025年) | 129.8 |
| 「異性関係」動機の調停申立て | 11,280 | 7,216(2025年) | 64.0 |
| 離婚件数 | 226,238 | 185,904(2024年) | 82.2 |
データから断定できるのは、ここまでです。探偵の営業所は3割増え、浮気を理由とする法的な争いは4割近く減り、離婚自体も2割近く減った。素直に読めば、主力業務の「出口」が縮んでいるのに供給だけが増えた、需給のねじれです。
では、なぜこのねじれが起きているのか。ここから先は、公的統計だけでは断定できません。考えられる読み解きを3つ、どこまでが事実でどこからが仮説かを区別しながら示します。
私は夫の浮気が分かった後、離婚ではなく再構築を選んだので、調停も裁判もしていません。統計の上では、うちのケースはどこにも数字として残っていないんですよね。争いの件数が減ったからといって、悩んでいる人まで減ったとは、自分の経験からはとても思えません。
読み解き1:増えたのは「探偵を名乗る営業所」である
まず供給側から。これは制度の話なので、仮説ではなく断定できます。
探偵業は免許制や許可制ではなく、公安委員会への届出制です。国家資格も試験もなく、法律の定める欠格事由に当たらなければ、届出をすることで開業できます。開業のハードルが低い業種であり、届出の約7割が個人という内訳も、それと整合的です。届出制の詳しい仕組みは、探偵業法が定める手続きです。
つまり、この11年で増えたのは、正確には「探偵を名乗る届出営業所」です。営業所数の増加は参入のしやすさを反映したものであって、浮気調査の需要が増えたことと同義ではありません。グラフの右肩上がりを「それだけ浮気が増えているのか」と読むのは早計だ、ということです。
読み解き2(仮説):「疑い」は統計の外へ移っている
次に需要側です。ここからは仮説であることを明示したうえで書きます。
調停や裁判の統計が捉えているのは、裁判所に持ち込まれた争いだけです。「配偶者を疑っている人」の総量を測る公的統計は存在しません。減ったと確認できるのはあくまで表に出た争いであって、疑いそのものが減ったことを示すデータはどこにもないのです。
そのうえで、ねじれを説明しうるシフトが2つ考えられます。1つ目は、解決の場の変化です。調停に進む前に、弁護士同士の交渉で離婚条件や慰謝料の話がまとまるなら、司法統計には一切現れません。2つ目は、調査の目的の変化です。「離婚のための証拠集め」ではなく「事実を確かめてから身の振り方を決めるための調査」であれば、調査の後に調停が起きるとは限りません。どちらも公的統計で裏付けられた事実ではなく、数字のねじれと矛盾しない仮説にとどまる点は、重ねて強調しておきます。
私が探偵に調査を依頼したときも、最初から離婚を決めていたわけではありませんでした。シロなら安心してやり直したい、クロなら証拠を見てから考えたい、という気持ちでした。結果的に調停はしていないので、私の依頼もこの統計にはまったく出てこないことになりますね。
そもそも探偵に依頼するほどの状況なのか迷っている段階なら、先に浮気可能性チェックで、いま出ているサインを整理してから考えても遅くありません。





