「応募者の経歴を確かめたい」と考える企業の担当者も、「自分が調べられているのではないか」と不安な応募者も、採用の場面での身元調査には多くの疑問を抱えています。大切な採用だからこそ相手を確かめたい、という気持ち自体は自然なものです。ただし採用調査には法律上の明確な線引きがあり、知らずに越えると企業の側が責任を問われることになります。
結論:採用時の身元調査は、それ自体がただちに違法になるわけではありません。ただし職業安定法と厚生労働省の指針により、本籍・出生地や思想信条、労働組合への加入状況などの収集は原則として認められず、適法にできるのは業務との関連が明確な経歴確認や本人同意にもとづく照会などに限られます。この記事では企業ができる範囲と法律の制限、業界による違いを解説します。
採用時の身元調査は違法?まず全体像を整理
「身元調査 採用」と検索すると、「違法だ」という説明と「実際は多くの会社がやっている」という話が同時に出てきて、混乱するかもしれません。法制度は次の三層で整理すると正確です。
- 調査そのものを一律に禁止する法律はない:応募者の経歴や人物を確認する行為自体を罰する規定はありません。
- 収集してはならない情報が定められている:職業安定法にもとづく厚生労働省の指針が、社会的差別の原因となるおそれのある情報などの収集を原則として認めていません。
- 方法にも制限がある:個人情報保護法や探偵業法により、取得の手段や利用目的にも枠がはめられています。
つまり「調査は全部違法」でも「何でも調べてよい」でもなく、境界線がどこにあるかを知ることが出発点になります。中途採用の身元調査や、身辺調査を会社として外部に頼むケースでも、この枠組みは同じです。
収集してはならない情報——職業安定法と厚労省指針

職業安定法(第5条の5)は、求人者が求職者の個人情報を収集・保管・使用できるのは「業務の目的の達成に必要な範囲内」に限ると定めています。そして厚生労働省の指針(平成11年労働省告示第141号)は、次の情報について、特別な職業上の必要性がある場合などを除き、収集を原則として認めていません。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 社会的差別の原因となるおそれのある事項 | 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地、家族の職業・収入、本人の資産など |
| 思想・信条にかかわる事項 | 支持政党、人生観、購読新聞・愛読書など |
| 労働組合に関する事項 | 労働組合への加入状況、活動歴など |
さらに、厚生労働省が推進する公正採用選考の考え方では、本人の適性・能力に関係のない事項を応募書類や面接で尋ねることに加え、「身元調査などの実施」自体が就職差別につながるおそれのある行為として挙げられています。「本籍を確かめたい」「実家の家柄を知りたい」といった調査は、企業が外部に依頼したとしても認められない、というのが法制度の立場です。
この点は調査を受ける探偵の側にも義務があります。探偵業法は、調査結果が差別的取扱いなど違法な目的に使われることを知りながら調査を行うことを禁じており、契約時には依頼者の利用目的を確認します。差別につながる採用調査は、依頼しても引き受けてもらえないのです。
企業が適法にできる採用調査の範囲
では、企業には何ができるのでしょうか。業務との関連が明確で、方法が適正であれば、次のような確認は一般に適法と考えられています。
- 応募書類の記載内容の確認:学歴・職歴・保有資格が事実かどうかの照合。卒業証明書や資格証明の提出を求める方法が代表的です。
- 本人同意にもとづくリファレンスチェック:前職の上司などに勤務ぶりを尋ねる方法。本人の同意を得て行うのが実務の前提です。
- 本人が公開している情報の確認:SNSやブログなど、自ら発信している情報の閲覧。
- 業務に関連する範囲の素行確認:金銭を扱う職種における金銭トラブルの有無など、職務との関連を説明できる範囲の調査。
逆に、本人になりすまして情報を集める、住民票や戸籍を不正な手段で取得するといった方法は、目的が正当でも手段そのものが違法です。興信所へ就職時の身元調査を依頼する場合も、依頼できるのは適法な手段・適法な目的の範囲に限られます。
外部に調査を頼むべきか、頼むとすればどの範囲までかは、個別の事情によって判断が分かれるところです。依頼を検討する段階なら、目的を伝えたうえで「受けられる調査かどうか」から無料相談で確認するのが確実です。






