結婚を前に、相手や相手の家族のことをもっと知っておきたい——その気持ち自体は、人生の大きな決断を控えた人として自然なものです。一方で、「身元調査」という言葉には、日本の社会が向き合ってきた結婚差別の歴史が影を落としています。調べたい気持ちと、調べてはいけない領域。その線がどこにあるのかを知らないまま動くと、意図せず誰かを深く傷つけ、自分も法的な責任を問われかねません。
結論:出身地や部落、国籍、信条といった事項を結婚の判断のために調べることは、差別につながる行為として探偵業法や自治体の条例で規制されており、適正な探偵社は依頼を受けません。一方、生活実態・婚姻歴・借金の兆候など、結婚生活に直結する事実の確認は正当な目的の調査として依頼できます。この記事では規制の法的根拠と歴史的背景、依頼できる範囲との線引きを解説します。
「身元調査お断り」の背景にある歴史
まず、なぜ身元調査という言葉がこれほど慎重に扱われるのかからお話しします。
1975年、「部落地名総鑑」と呼ばれる書籍が発覚しました。被差別部落の所在地などを一覧にしたもので、多くの企業が採用の場面で購入していたことが明らかになり、大きな社会問題となりました。結婚の場面でも、相手の出身を興信所などに調べさせ、その結果を理由に婚約が破談になる——そうした結婚差別が現実に人を傷つけてきた歴史があります。
「身元調査お断り」という標語は、この歴史への反省から生まれた運動の言葉です。出身を調べること、そしてそれを結婚や就職の判断材料にすること自体が差別である、という考え方に立っています。2016年には部落差別解消推進法が施行され、部落差別は許されないものであることが法律にも明記されました。
この歴史を知ると、「身元調査=すべて悪」と感じるかもしれません。しかし正確には、規制されているのは「差別につながる調査」です。結婚生活に直結する事実の確認まで禁じられているわけではありません。この区別こそが、本記事の中心です。
探偵業法による規制——誓約書と業務の禁止
現在、調査業に対する規制の柱になっているのが探偵業法(探偵業の業務の適正化に関する法律)です。差別につながる身元調査との関係では、次の2つの仕組みが重要です。

**1つ目は、契約時の誓約書です。**探偵業者は契約を結ぶ際、調査結果を犯罪行為や違法な差別的取扱いなどのために用いない旨を示す書面を、依頼者から受け取らなければなりません。依頼の目的を確認するプロセスが、法律上の義務として組み込まれているのです。
**2つ目は、業務そのものの禁止です。**探偵業者は、調査結果が違法な差別的取扱いに用いられることを知ったときは、その探偵業務を行ってはならないと定められています。つまり「出身を調べて結婚の判断に使いたい」という依頼は、受けた時点で業者が法律に違反することになります。
さらに、大阪府をはじめとする複数の自治体には、部落差別につながる調査を興信所・探偵業者に対して明示的に禁止する条例があります。戸籍についても、過去の不正取得事件を受けて戸籍法の規制が強化され、第三者が正当な理由なく他人の戸籍を取ることはできず、不正取得は処罰の対象です。探偵であっても戸籍や住民票を代わりに取得することはできません。
調べてはいけない事項の一覧
差別につながるおそれがあるとして、調査の対象にしてはならないとされる代表的な事項を整理します。採用の場面では、職業安定法に基づく厚生労働省の指針も同様の事項の収集を原則として認めていません。
| 事項 | 規制の観点 |
|---|---|
| 出身地・本籍・被差別部落との関わり | 部落差別解消推進法・自治体条例・探偵業法 |
| 国籍・民族 | 違法な差別的取扱いの禁止 |
| 思想・信条・宗教 | 憲法が保障する内心の自由 |
| 支持政党・社会運動歴 | 採用では職業安定法指針で収集原則不可 |
| 病歴・障害(結婚・採用の判断材料としての収集) | プライバシー・差別防止の観点 |
ここで、当事者の立場に立って考えてみてください。自分の出自や信条を、本人の知らないところで調べられ、それを理由に結婚を断られる——それがどれほど理不尽で、深い傷を残すことか。これらの事項は「調べる手段がない」のではなく、「調べること自体が人の尊厳を損なう」から規制されています。この点は、依頼を考える側こそ理解しておくべきことだと思います。
では、何を確かめることはできるのか
規制の趣旨を押さえたうえで、結婚前に確かめられる正当な範囲を見てみましょう。結婚生活に直接関わる「事実」の確認は、差別とは性質が異なります。

- 生活実態(住まい、勤務先での在籍、日常の行動)
- 過去の婚姻歴の有無や、現在も既婚ではないかという疑いの確認
- 借金を推認させる生活状況(信用情報そのものは本人開示のみで、探偵でも照会できません)
- 交際相手の説明と実態が食い違っていないか
- 反社会的な交友関係の有無
たとえば「勤務先を偽っているかもしれない」「既婚者かもしれない」という不安は、あなた自身の人生を守るための確認であり、相手の属性による選別ではありません。調査項目の詳細は婚前調査とは?調べられる内容で、費用の目安は婚前調査の費用相場で整理しています。
自分の不安がどちら側にあるのか、一人で判断がつかないこともあると思います。そんなときは、抱えている不安をそのまま無料相談で話してみてください。適正な探偵社なら、依頼できる部分とできない部分を契約前に仕分けしてくれます。





